【平松 昭良】飽きない家と、おしゃれな家の違いとは?

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今回は、私が設計の仕事をするうえで常に意識している問い——「10年住んでも飽きない家とは何か」について、正直に書いてみたいと思います。

この仕事をしていると、竣工から数年後にクライアントから連絡をいただくことがあります。

「あのとき建てた家のデザイン、今でも本当に好きです」という言葉は、デザイン設計者として何より嬉しいものです。一方で、「もう少しこうすればよかった」という声もある。その両方を積み重ねてきた経験の中から、飽きない家には確かな共通点があると、私は気づくようになりました。

飽きないことと、おしゃれなことは別問題

まず最初にお伝えしたいのは、「飽きない家」と「おしゃれな家」は、実は全く別のものだということです。おしゃれさは時代と連動します。今この瞬間にトレンドのデザインは、5年後には「あの時代っぽい」と感じられるようになる。インテリア雑誌や住宅系のSNSで見かけるような、流行の素材やカラーパレットをそのまま取り入れた家は、完成した瞬間が最もおしゃれで、そこから少しずつ鮮度が落ちていきます。

では、飽きない家の条件とは何か。私が最も重要だと考えているのは、「余白があること」です。壁も、棚も、床も、情報で埋め尽くされた空間は、最初は迫力があっても、毎日暮らすには疲れる。

余白は「何もない空間」ではなく、「変化を受け入れる余地」です。子どもが生まれて荷物が増えても、趣味が変わって飾るものが変わっても、余白があれば空間はそれを柔軟に受け止められる。完成度を上げすぎた空間は、逆に住む人の変化を拒絶してしまうのです。

あえて空間に余白を作る

設計の段階で「ここは何も置かない」と決めた場所をつくることが大切です。収納を限界まで詰め込むのではなく、意図的に空けておく壁、使い方を決めない一角——そういった「未決定の余地」が、10年後の暮らしの変化を支えてくれます。

二つ目の条件は、「素材が経年変化を許容していること」です。無垢の木の床は、傷がつき、色が変わり、踏み込んだ場所から艶が出てくる。漆喰の壁は、時間とともに微妙な表情の変化を見せる。真鍮の金物は、使うほどに深みのある色になっていく。こういった素材は、新築直後より5年後、10年後のほうが美しい。傷や変化を「劣化」として見るのではなく、「その家で暮らしてきた記録」として見られるかどうか。これが、飽きない家づくりの素材選びの根本にある問いです。

逆に言えば、均一で完璧な仕上がりを保とうとする素材——傷がつくと目立つシートフローリング、汚れが気になる純白のクロス——は、どうしてもメンテナンスの手間とストレスを生みやすい。新築直後はきれいでも、暮らしの痕跡が「汚れ」にしか見えない素材は、住む人を疲弊させていきます。

あえて「遊び」の空間を作る

三つ目は、「間取りに遊びがあること」です。家族構成は変わります。子どもは成長して独立し、仕事のスタイルが変わり、趣味が生まれ、老いていく。10年前に「完璧な間取り」だったものが、今の生活にはまったく合わなくなっている——そういうケースを、私はたくさん見てきました。

飽きない家は、用途が固定されすぎていない家です。「子ども部屋」として設計した部屋が、将来は書斎になれる。「ダイニング」として使っていたスペースが、仕切り一つでワークスペースに転用できる。

こういった転用できる余地を設計の段階で意図的に仕込んでおくことが、建築デザイナーとしての私の大きなテーマの一つです。建築学科で学んだ構造的な思考が、ここでも活きてきます。壁の位置一つ、開口部の大きさ一つが、将来の可変性を大きく左右するのです。

将来の家族設計を考えたデザイン

「この部屋は将来どう使えるか」を設計の段階で設計者と話し合っておくことをおすすめします。10年後の自分の生活を完全に予測することはできませんが、「こうなったらこう使う」という選択肢をいくつか持っておくだけで、家の寿命は大きく変わります。

四つ目は、「光の設計が丁寧であること」です。これは以前も書きましたが、何度でも伝えたいことなので改めて。光は最も変化し続けるインテリアの要素です。朝の光、昼の光、夕方の光、夜の照明——同じ空間でも、光の質によってまったく違う表情を見せます。この変化を楽しめる空間は、毎日住んでいても新鮮さが続きます。

逆に、光の設計が雑な家は、どれだけ家具にこだわっても「なんか違う」という感覚が抜けない。窓の位置、庇の深さ、照明器具の種類と配置——これらが丁寧に設計された家は、晴れた日も、曇った日も、季節が変わっても、その都度違う美しさを見せてくれます。それが「飽きない」ということの、最もシンプルな正体だと私は思っています。

まとめ

10年住んでも飽きない家。それは、流行を追わず、余白を持ち、変化を受け入れ、光と素材が時間とともに育っていく家です。完成した瞬間に「完璧」である必要はない。むしろ、住み始めてから少しずつ深みを増していく空間のほうが、長い目で見ると豊かな家になると私は確信しています。

設計者として私が目指しているのは、クライアントが10年後、20年後に「この家にして良かった」と思える空間をつくることです。その言葉をいただけたとき、この仕事を続けてきて良かったと、心から思います。

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